ホーム > 研究開発・生産体制 > 開発エピソード

フィットフィックス開発

手術室に派生する血液や生理食塩水は、かつて8,000ccのガラスビンで汚物室まで運び、洗面台へ流されていました。ビン自体の重さが2kgあり、全体で10kg近くになってひとりでは洗面台にあけようとしても持ち上がらないほど重いこともあります。これはかなりの重労働でした。また、ビンをうっかり割ってしまい血液が体にかかってしまうこともあり、院内感染のリスクが高く非常に危険な作業でもありました。この重労働と感染リスクを解消するための対応を医療現場では求めていました。

これを解決するヒントになったのが、使用済み調理油を固形化する凝固剤でした。廃液の容器を樹脂化し、廃液を凝固させてしまえば安全に運べるうえ、容器ごと焼却する事も可能です。

ところが手術に伴う廃液は、血液と生理食塩水との比率がまちまちです。安定した凝固状態を得る為、量や種類、混合比率を変えた凝固剤を何十種類も作り幾度となく実験を繰り返し、一定時間ごとに凝固状態を観察していきました。

実験には牛血を使用しました。しかしフィットフィックスの容量は合計では10数リットルになりますから、実験用に市販されている牛血では値段が高すぎます。また、新鮮な血液でないと実践的なデータも得られません。そこで自ら屠殺場へ出向き、バケツで牛血を集めてくる方法をとりました。文字どおり血塗れの実験でした。

このような力技的な実験を繰り返してようやくフィットフィックスが商品化され、今では国内トップシェアのヒット商品になっています。
このフィットフィックスの開発は、医療現場の立場に立ってニーズをキャッチし、その実現に向けて開発に取り組めば必ず結果がついてくるということを証明してくれました。

シリンジェクター開発

持続注入器の薬液を押し出す圧力はバネかバルーン(風船)が主流だったため、薬液注入開始時の流出速度は高く、終了時には急きょ流出速度が上昇する傾向があり一定の流出速度を保つことができませんでした。

「シリンジの先端を塞いでプランジャーを無理矢理引き上げた時、そのプランジャーが元の位置に戻ろうとする力は、プランジャーの位置に関わらず一定である。」これがシリンジェクターの吐出流量が一定であることの原理です。

実は、この原理はシリンジェクター開発のためではなく、当時の開発テーマであった低圧持続吸引器に応用しようと考えついたものでした。
この低圧持続吸引器、商品化はされたものの結果的にはオーバースペックな商品であったために製造中止となりましたが、そのノウハウとアイデアを吸引ではなく注入に、更に応用して開発されたのがシリンジェクターです。

シリンジェクターは、真空状態を維持する為に気密性能を向上させることと、薬液を吐出する時のノッキングを防ぐ為に摺動抵抗を低減することとのバランスが最大の課題でした。

そして最も大変だったのが、出来あがった試作品の評価でした。当時は吐出流量を測定するのに、1時間ごとに本体重量を測定してその減量を吐出流量としていましたから、60mLを充填して1.0mL/Hrで吐出すれば60時間の実験です。実験中はタイマーを持ち歩き、タイマーが鳴ると実験室に走っていくという状態を60時間続けるわけですから、シリンジェクターの開発といえば、設計よりも実験に体力を消耗しました。

今では自動で吐出流量を測定してくれる専用の測定器も製作し、当時のような睡眠不足を経験することはなくなりましたが、シリンジェクターが医療現場に受け入れられ、実際に患者さんの治療に役立っていることを思うと、当時の苦労も懐かしい思い出です。